はじめに
「最初に断っておくが、これは不愉快な本だから気分よく一日を終わりたい人は読むのをやめたほうがいい。だったらなぜこんな本を書いたのか。それは世の中に必要だから。」
なんとも興味をそそられる書き出しですが、今回は橘玲さんの大ベストセラー「言ってはいけない残酷すぎる真実」を要約していきます。
テレビや新聞。雑誌では耳障りのいい言葉があふれています。
メディアに登場する政治家や学者は、いい話と分かりやすい話しかしません。
誰もが見たいものだけを見て、聞きたいものだけを聞く。
真実かどうかなんてどうでもよくて、自分が気持ちいい主義主張だけを取り入れる。
今はそんな世の中です。
しかし世界というのは、本来残酷で理不尽なものなのです。
その理由は、たったの1行で説明できます。
「人は幸福になるために生きているけれど、幸福になるためにデザインされているわけではない」
私たちをデザインしているのは、長い間「神」と考えられてきましたが、今でははその正体がわかっています。
それは「進化」です。
ダーウィンの進化論に始まり、今ではそれが脳科学などの知識と融合して現代の進化論が誕生し、世の中のありとあらゆる問題に答えを出しています。
現代の進化論はこう主張します。
「体だけではなく、人の心も進化によってデザインされた。」
つまり私たち喜びや悲しみ、愛情や憎しみは、すべて進化の枠組みで説明できるのです。
さらに今では世の中で起きているあらゆる出来事さえも、進化の枠組みで説明できます。
この本には「進化論」という科学を用いて、世の中の様々ことについての「残酷すぎる真実」が書かれています。
耳をふさぎたくなるような主張や、気分が悪くなるような真実もたくさん書かれています。
しかし橘さんは、悪趣味でこんなことを書いているわけではなく、世の中に必要だから本書を書いたのです。
どんなに残酷であろうと、どんなに都合が悪かろうと、真実を真実として認識し、そこから始めないと正しい一歩が踏み出せないのです。
都合が良い間違った前提に基づく主張は、まったくの無意味です。
進化という圧倒的な力の前では、すべてが砂上の楼閣になってしまうのです。
では世の中にはどんな残酷な真実があるのか…。
少し苦しいですが、皆さん覚悟はよろしいですか?
暗黙の規範

親から子へと「外見」や「性格」が遺伝することは昔から知られていました。
背の高い親の子が長身なのは当たり前で、せっかち子供が「親に似たんだね」と言われるのも普通のことでした。
しかし、次の文には拒絶感を示す人がとても多いのです。
精神疾患のある親からは、精神疾患のある子供が生まれる。
太った親からは、太った子どもが生まれる。
皆さんはこのことに納得できますか?
でもこれは先ほどの「背の高い親から、背の高い子供が生まれる」と同様に、外見や性格が遺伝すると述べただけなのです。
同じ話なのに受け止め方に違いが生じるのは、私達の社会では「暗黙の規範」があるからです。
それは「スリムな女性は美しいと」「明るい子がすばらしい」という規範です。
しかし「スリムな女性が美しい」という規範は、言外に「太っている女性は醜い」と告げています。
「子供は明るく元気であるべきだ」という規範は、「暗くて地味な子どもには問題がある」という規範を内包しているのです。
そして私達は暗黙のうちに、「太っている女性や暗い子供を遺伝子のせいにしてはいけない」と考えているのです。
なぜなら体型や性格に遺伝の影響があるとしても、それは本人の努力や親が与える環境によって、乗り越えられるはずだと考えているためです。
これは極めて残酷な話で、太っている女性には「やせるべきだ」という社会的圧力が、暗い子供には「明るくなるべきだ」という教育的圧力が加えられるのです。
そして彼らは豊かな社会と恵まれた環境の中で、自分の失敗を何か他のもののせいすることが許されません。
家族や友人の「痩せたらモテるよ」とか「明るくなったら楽しいよ」という善意の励ましは、どれほど努力しても痩せられない女性や、明るくなれない子供を深く傷つけるのです。
つまりここで言いたいのは、背の高い親からは背の高い子どもが生まれるとか、せっかちな親からはせっかちら子どもが生まれるというように、外見や性格が遺伝するのなら、例え一般的にネガティブであると考えられている外見や性格であっても、遺伝するだろうという事です。
背の低い親から生まれた子供に「背が低いのは君の力が足りないからだ」とあなたは言えますか?
太った親から生まれた太った子供に対して、「太っているのはあなたの努力が足りないからだ」と言うのは残酷な話です。
すべては遺伝する

外見と性格以上に遺伝してはならないと、暗黙のうちに考えられているものが1つあります。
それは「知能」です。
結論を言えば、論理的推論能力の遺伝率は68%で、一般知能(IQ) の遺伝率は77%です。
これは要するに、知能の違い(頭の良し悪し)の7割から8割は「遺伝」で説明できることを示しています。
どれほど努力しても痩せられない子供はいるし、逆上がりができない子供もいます。
訓練によって音痴が矯正できないこともあるし、どれほど頑張っても身長を伸ばせないことと同じように、どんなに頑張っても勉強ができない子供もいます。
しかし現代の学校や教育は、そのような子供の存在を認めません。
知能は環境によるもの、個人の努力によるものだから、「勉強ができないのは、お前のせいだ」という理屈になります。
だから不登校や学級崩壊が起こるのも当たり前のことです。
私達は身長が遺伝で決まっていて、身長にはバラつきがあることは受けれています。
しかし知能も同じように遺伝により7〜8割決まっていて、生まれつきみんな知能はバラバラなのです。
つまり私達は、遺伝に対する考え方を間違っていました。
親の片方が外国人なら、生まれてくるハーフの子供は身長が高く顔立ちが整っているだろうというのは、誰でも予想できるでしょう。
外見や性格が遺伝するならば、その他の能力もまとめて遺伝すると考える方が自然です。
つまり身長や体重、 知能や依存症、精神疾患や犯罪までもが遺伝すると考えるのが自然なのです。
「いやいや精神疾患とか犯罪まで遺伝しないでしょ」と思うかも知れませんが、これはかなりの確率で遺伝することが判明しています。
しかしそれは社会的には言ってはいけないことなので、それをテレビで発言する人はほとんどいませんが、専門の医学書とか海外の本には普通に書かれていることです。
そして遺伝の中でも最も大きいのが「音楽の才能」と言われています。
その遺伝率はなんと92%で、親を見れば子供が音楽家になれるかどうかは分かります。
そして身長の遺伝率が66%に対し、体重の遺伝率がなんと74%です。
スリムなことが美徳とされる社会では、太っているのはダイエットに失敗したためつまり「努力ができないからだ」と考えられていますが、体重の高い遺伝率から考えればダイエットに成功できるのは「遺伝的に痩せている人だけ」という可能性が高いです。
結論はとても憂鬱なもので、「努力は遺伝に勝てない」のです。
遺伝子は指針となる

このように真実は残酷ですが、しっかり受け止めることで大きなメリットもあります。
例えば自分が遺伝的にアルコール依存症になりやすいということが分かっていれば、酒に手を出さないという選択ができます。
依存症になりやすい人は、一度酒を飲むと辞められなくなってしまいますが、事前に分かっていればそもそも手を出さないという選択ができます。
また人に酒を勧められても、自分には遺伝的に大きなリスクがあると言って断ることもできます。
また音楽の才能の遺伝率が92%ということを考えると、自分は音楽の道は向いていないと、将来の選択をする際の参考とすることもできます。
また自分は精神疾患になりやすいと分かっていれば、周囲の人のサポートを受けたり、精神疾患にならないような生活習慣を事前に取り入れ、予防することもできるでしょう。
このように「すべての能力は遺伝である」ということを受け入れれば、事前に対策が打てます。
自分は何に向いていて、何に向いていないのかといった「答え」があらかじめ分かっているのですから、それに従って最適な選択をすることができます。
遺伝子は、あなたの可能性を狭めるものではありません。
あなたの得意・不得意な分野を、見極めることができるだけなのです。
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