はじめに

今回は橘玲さんの「人生は攻略できる」を要約していきます。
本書は人生をロールプレイングゲームだと考え、私たちがこれからどう生きるかを考察しているとても面白い一冊です。
人生がゲームだというと「ふざけているのか!」と怒る人もいるかもれません。
しかし人生とゲームには共通点があるのです。
それは「世界観」と「攻略法」です。
ドラクエをプレイするとき、そこがどんな国なのか、自分はどんなキャラクターなのか、ゲームの目的は何か、どうすれば自分のレベルを上げられるのか、を知らなければゲームをプレイすることはできません。
これがゲームの「世界観」であり、基本的なルールなのです。
同様に私達が生きている世界についても、人生の目標は何なのか、ゴールにたどり着くにはどうすればいいのかが分からなければ、人生において何をどうしていいのか分からず、戸惑うばかりでしょう。
ロールプレイングゲームに限らず全てのゲームには「攻略法」があります。
この場面ではこうするべきだという「鉄則」と、これだけはやっていけないという「禁止」の組み合わせで、その通りにやれば必ずうまくいくわけではありませんが、それでもゲームを有利にすすめることはできます。
逆に何一つ攻略法を知らずすべて我流でやってしまえば、いつまでたっても「レベル1」のままでしょう。
そして人生もこれと同じなのです。
人生に必勝法はないけれど、ゲームと同じ様に「上手くいきやすい方法」と「やってはいけないこと」があるのです。
この人生ゲームの鉄則というのは、とてもシンプルなものばかりですが、それを知っているかどうかで大きな格差が生じます。
なぜなら、ちょっとした選択の違いが、長い人生の中で良い方にも悪い方にもどんどん膨らんでいくからです。
例えば、幼い頃にしっかりと勉強する習慣をつけた人は、勉強する習慣を身に付けられなかった人に比べて、どんどん上のステージに上がっていくでしょう。
また人生の早い段階で、運動は体に良くて頭もよくなるという知識を身に付け、コツコツ運動する習慣を身に付けた人と、運動の習慣を身に付けられなかった人とでは、年を取るにつれて健康や年収、人生の幸福度において、圧倒的な差がつくということは誰でも想像できるでしょう。
これは「フィードバック効果」と言われるもので、私たちの人生を左右するとても大事な要素なのです。
つまり、人生において「やるべきこと」と「やってはいけないこと」をできるだけ早い段階で把握し、コツコツと実践していけば人生を攻略できるのです。
問題は、その知識を知っているかどうか、そしその知識を知った後に実行できるかということです。
そして絶対に覚えておいておかなければならないのは、今現在「人生の約束事」が大きく変わりつつあるということです。
例えば、一生懸命勉強して良い大学に入り、大きな会社に就職して定年までコツコツ働くとか、そういう男性と結婚して専業主婦になるという、お父さんやお母さん世代の必勝法は全く役に立たなくなってしまいました。
昔の攻略法が使えなくなった理由は、テクノロジーがものすごい勢いで進歩しているからです。
世界は急速に変わりつつある世界では、変化に応じてゲームのルールは大きく書き換えられていくのです。
本書では「圧倒的な努力ができるのは好きなことだけである」や「お金がなければ自由なんて絶対にありえない」など、ちょっと勉強している人なら聞いたことがあるであろう内容については割愛し、今の変化の激しい時代を生きていく上で最も重要な「ポジティブゲーム」について徹底的に解説していきます。
ポジティブゲームをせよ!

本書のキモはこの「ポジティブゲームをせよ」ということに尽きます。
このポジティブゲームについて考えていくうえで皆様にまずお伝えしたいのは、日本のサラリーマンは世界で一番会社を憎んでいて、仕事に対して後ろ向きだというデータです。
さまざまな国際調査において、日本のサラリーマンは世界で一番会社が嫌いで、自分の仕事にネガティブな感情を抱いているということが判明しています。
これは OECDのような国際的な団体も含め、10を超える調査で判明したことです。
なぜこのような酷い結果になってしまったかを理解する鍵は、「伽藍」と「バザール」という概念です。
伽藍とバザール

「伽藍」というのは、お寺のお堂とか教会の聖堂の様な壁に囲まれた閉鎖的な場所を意味します。
それに対して「バザール」は、誰でも自由に商品を売り買いできる開放的な空間を指します。
この開放的なバザールの特徴は、参入も退出も自由であるということです。
商売に失敗して「あの店はダメだからやめたほうがいい」と言われても、さっさと店を畳んで別の場所でやり直せば良いのです。
その代わり、バザールでは誰でも商売を始められるため、ライバルは非常に多いです。
普通に商品を売っているだけでは成功できません。
これがバザールの基本ルールだとすると、どういう戦略がバザールでは一番有効でしょうか。
それは失敗を恐れず、ライバルに差を付けるような大胆なことに挑戦して、一発当てることです。
もちろん運よく成功するより、挑戦に失敗してしまうことの方がずっと多いでしょう。
しかしそんなことを気にする必要はないのです。
バザールでは悪評はいつでもリセットできるのだから、重要なことは良い評判をたくさん集めることです。
これを「ポジティブゲーム」と呼びます。
それに対して伽藍の特徴は、参入が制限されていて容易に退出できないということです。
このような閉鎖空間だと「あの店の店主は態度が悪いよね」と言ったちょっとした悪評が、消えないままずっと続くことになります。
これが伽藍の基本ルールだとすると、伽藍では「失敗するようなリスクはとらず、目立つことは一切しない」という戦略が効果的です。
なぜなら一度ついた悪い評判は二度と消えないのですから、伽藍の必勝戦略は悪い評判をできるだけなくすことになります。
こちらを「ネガティブゲーム」と呼びます。
日本の会社はネガティブゲーム

日本の会社というのは、典型的な伽藍の世界なのです。
日本の会社の一番の特徴は「終身雇用制度」であり、これは一度入った会社で定年までずっと働くことで、入社から定年までの期間はものすごく長いにも関わらず、終身雇用が大きな問題にならなかったのは、このゲームをやり抜くためのマニュアルが用意されていたからです。
かつての定年は55歳で、20代で仕事を覚え、30代で課長になり、40代でバリバリ働き、50代になったら偉くなってちょっとのんびりし、その後は退職金と年金で悠々自適に暮らすというのが典型的なサラリーマンの物語でした。
こんな働き方ができたのは、日本人の平均寿命が65歳だったからです。
しかしこうした条件は、今では大きく変わってしまいました。
平均寿命は90歳に近づき、それに伴って定年も65歳となるも、いまや70歳にしなければ年金制度がもたないと議論されております。
かつてのサラリーマン物語は完全に崩壊し、今では将来の幹部かどうかの選別はなんと30代で終わっているというのが常識です。
定年が70歳になったとして20歳で就職したら同じ会社に50年もいることになります。
最初の十年で出世できるかどうかが決まるとするならば、そこで振り落とされたのなら「居場所はないよ」と言われながら40年も会社にしがみつくことになります。
これは控えめに言っても拷問でしょう。
そんな伽藍の世界に閉じ込められたサラリーマンが、世界で一番会社を憎むようになるのは当然なのです。
ポジティブゲーム戦略

閉鎖的な伽藍だらけの日本では、そこら中にネガティブゲームに習熟した人たちがいます。
ですから彼らと同じネガティブゲームで競争するのは、最悪の戦略となります。
しかし伽藍の世界しか知らない人たちは、ポジティブゲームがまったくできません。
当然ながら、大して競争相手のいないバザールで勝負した方が、遥かに成功確率は高くなります。
そして今の世界ではこのバザールで戦うポジティブゲームが、とてもやりやすい環境になっているのです。
なぜならば、昔は一部の特権階級しか使えなかったプラットフォームが、すべての人に解放されたからです。
昔はテレビCMを流そうとすると、何千万円もかかりました。
しかし今なら google のサービスを使えば、数万円から世界中に広告を出せます。
昔はCDを出せるのは限られたミュージシャンだけでしたが、動画配信サイトならアマチュアでも自分の歌を世界中のファンに聞いてもらえます。
インターネットが登場するまでは、オリジナル商品を開発してもそれを流通に乗せるには、問屋にお願いするなど多大な苦労をしなければなりませんでした。
しかし今ではアマゾンの倉庫に商品を預け、ブログやツイッターで商品説明をし、 google で宣伝すれば良いだけなのです。
つまり、ネットの世界はどんどんバザール化しているのです。
そしてこれからもこの流れはどんどん加速していきます。
終身雇用などという日本にしかない制度に依存して、一つの会社で目立たずにネガティブゲームをやっている人たちは、落ちこぼれていきます。
なぜならば、世界のポジティブゲームがどんどん進んでいる潮流に乗り遅れてしまうからで、世界の流れと逆行しているようではどう考えても生き残っていくことはできません。
そしてポジティブゲームを行っている最も分かりやすい人たちが、ユーチューバーやインスタグラマーなどのインフルエンサーです。
彼らはできるだけ目立つことをして多くの良い評判を集めることで、その良い評判をいつでも換金することができます。
例えばCMに出てお金をもらうというのは、自分の良い評判をお金に換金しているということに他なりません。
そしてユーチューバーはたとえ一度失敗したとしても、そのチャンネルを閉じてまた新しく別のチャンネルを始めればいいわけですから、典型的なバザールな世界に生きています。
一度会社に就職してしまったら、なかなかそこを辞められない「伽藍の世界」とは全く別の戦い方をしています。
GAFAなどがプラットフォームを独占するのは、他の企業には困ったことかも知れませんが、オリジナルのコンテンツで個人で勝負しようとしているクリエイターやインフルエンサーにとってはこんなに素晴らしい時代はないのです。
よく今ではお金よりもフォロワーの数が大事だと言われておりますが、これは典型的なポジティブゲームの世界なのです。
1つの会社に所属して、目立つことを一切せず、失敗を避けて一生を終えることはもはやできなくなりました。
終身雇用が崩壊し、大企業もいつ潰れるかわからない時代です。
そんな新しい時代の新しい戦い方が「ポジティブゲーム」であり、バザールの世界においてできるだけ良い評判を集めるのです。
「伽藍を捨ててバザールに向かえ!」それこそがお金よりも評価が重要視される新時代にふさわしい人生の攻略法であると、本書では強調されています。
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